“落ち着きのある金属光沢塗装”——車両デザインに新たな質感(日本ペイント 4612)

リード(要約)

日本ペイントホールディングスは、自動車塗装向けに新たな金属調塗膜技術を開発し、特許を取得した。光沢と落ち着きを両立し、見る角度による色の変化を抑えた本技術は、高級車の外装に求められる意匠性の進化に対応。素材や構造を最適化することで、質感と均一性を高い次元で実現している。


高級感と均一性が求められる車体塗装

自動車の塗装は、単に外観を整えるだけでなく、製品価値を訴求する重要な要素だ。とくに高価格帯の車では、光の反射や質感の違いがブランドイメージに大きく影響する。日本ペイントホールディングスが開発した新技術は、そうしたニーズに応える金属調の複層塗膜で、見た目の美しさと安定性を両立する。


明るく、落ち着いた金属感を再現

新しい塗膜は三層構造を採用する。まず下地に白と黒の顔料を配合した色つき塗膜を施し、その上にアルミ粒子などの光輝材を含む中間層を重ねる。さらにその上に透明なトップコート(クリヤー層)を塗布する構造だ。この中間層に含まれる金属粒子が、見る角度や光の当たり方によって輝きを演出し、単なる銀色ではない深みのある表情を生み出す。


角度による色変化を抑え、安定した見た目を実現

従来の金属調塗装では、光の反射によって色の見え方が大きく変わる“フリップフロップ現象”が発生しやすかった。これが外装全体の印象をばらつかせ、高級感を損なう原因ともなっていた。今回の技術では、この変化を示す指標(明度L*5とL*45の比率)を1.0〜3.0に制御することで、見る角度による違和感を抑え、車体全体の統一感を保つ工夫がなされている。

注釈:フリップフロップ現象とは、視点の変化によって色や明るさが大きく変化してしまう現象。


金属粒子の配置にも工夫、細やかな質感を演出

もう一つの特徴は、塗膜に含まれる金属粒子の向きや配置密度にも配慮した点にある。粒子の約8割を塗膜表面と平行になるように整列させることで、粒の粗さを抑え、なめらかで品のある光沢を実現。粒子感(グレイニネス)は2.0〜5.0の範囲に制御されており、見る者に「緻密な仕上がり」と「奥行き感」の印象を与える。

注釈:**粒子感(グレイニネス)**とは、塗装表面の粒の大きさや分布により見える“ざらつき”の度合いを示す指標。


差別化ポイントは「均一感のある光輝感」

同様の技術はすでに他社でも展開されているが、今回の技術はとくに“落ち着いた金属感”と“視覚の安定感”を強調する点において差別化されている。光沢の強さだけでなく、見る角度や周囲の光の影響を受けにくく、品質が均一に見えるよう細部まで設計されている。これは高級車市場で重視される“質感の連続性”と合致する。


高級車や電気自動車(EV)分野への展開に期待

電動化が進む中で、自動車のデザイン性への関心はますます高まっている。エンジン音が消え、インテリアもミニマルになるEVでは、外装の存在感がより重要になる。本技術は、そうした車両に対して差別化要素としての「光の演出」を提供する。今後は、高級セダンやSUVに加え、EV市場向けのプレミアムモデルへの採用が見込まれる。


意匠と技術を両立する知財戦略へ

この特許(特許第7689257号)は、単なる製品仕様の保護にとどまらず、同社の意匠表現技術全体を支える知財資産となり得る。競合他社の模倣を防ぐと同時に、顧客への提案価値を高める要素として活用できる。自動車業界では、意匠の差別化が車種の付加価値向上に直結するため、本技術のもたらす影響は小さくない。

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