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マブチモーターは、温度変化によるファンの変形を抑え、振動や騒音を防ぐ新構造の遠心ファンを開発した。異なる素材を組み合わせ、接着部の位置と構造に工夫を施すことで、モーターの静粛性や耐久性を大幅に向上させる。
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自動車や電化製品、産業用機器の内部に搭載される小型モーターは、冷却や換気のために遠心ファンを回転させる構造を多く採用している。こうしたファンにとって重要なのが「静かに、安定して回る」ことだ。しかし、実はこの“当たり前”の動作が、温度の変化によって簡単に損なわれるという課題がある。
マブチモーター(千葉県松戸市)はこのたび、熱によるファンの変形に伴って発生する“バランスの乱れ”を解消する新しい遠心ファンの構造と接着手法を開発し、特許を取得した(特許第7688796号)。これにより、小型モーターの静粛性や寿命を左右する振動や騒音の発生を抑えることが可能になる。
従来技術の課題:温度で変形、バランスが崩れる
これまでのファン構造では、金属製のモーター軸(ロータ)に、プラスチック製の羽根を接着して一体化させていた。ところが、金属とプラスチックでは熱に対する膨張率(線膨張係数)が大きく異なる。たとえば高温環境下でプラスチック部分だけが大きく膨張すると、ファン全体の重心がずれてしまい、回転時に“ブレ”が生じる。
このようなファンのブレは、高速回転時の振動や騒音につながるだけでなく、製品の信頼性や耐用年数をも脅かす要因となる。
マブチの解決策:構造の工夫で熱変形を吸収
今回マブチが開発した新技術では、ファンの樹脂製部分(羽根付き主板)と金属製のロータを、従来とは異なる位置で接着する構造を採用した。
具体的には、ファン側の“接着面”を、これまでの筒状の外周部から、内側の補強リブ(小さな突起状の部品)と呼ばれる部位に変更した。これにより、ファンが熱で変形しようとしても、筒部の動きを邪魔せず、“浮き上がり”と呼ばれる不均一な変形を抑えることができる。
さらに、金属と樹脂の間にはあえて“隙間(クリアランス)”を設けることで、素材ごとの膨張や収縮に“遊び”を持たせ、ファン全体が無理な力を受けないようにした。
差別化ポイント:接着の位置と広がりを最適化
もう一つのポイントは、接着剤の使い方だ。接着は、単に点ではなく、リブの端面や側面など複数の面にわたって広く行われている。これにより、耐久性を落とすことなく、熱変形への柔軟性を保つことができる。
また、接着面を複数の小さな部位に分散させたことで、1か所に集中して応力がかかることも避けられる設計となっている。
期待される効果:静粛性と長寿命を両立
この構造により、ファンの回転時に重心のズレが起きにくくなり、振動や騒音の発生が大きく抑えられる。製品の静音性を求める自動車用換気ファンなどにおいて、特に有効と見られる。
また、温度変化が大きい環境下でも性能を安定して維持できるため、寒暖差が激しい地域での車載用途や、電動工具など過酷な使用状況でも信頼性を発揮する。
今後の展開:電動モビリティや小型家電に商機
現在、電動モビリティの普及に伴い、車内換気や電子部品の冷却用に小型モーターの需要が高まっている。また、省スペースかつ静音が求められるノートPCやゲーム機などの家電分野でも、熱対策として小型ファンの性能が競争力に直結する。
マブチモーターは、モーター内蔵型ファンの信頼性を高める今回の技術を武器に、これら分野での製品展開を加速させるとみられる。
注釈:
- 線膨張係数:物体が温度変化によってどれだけ伸び縮みするかを示す指標。数値が大きいほど、温度でよく伸びる。
- ロータ/ステータ:モーター内部で回転する部分(ロータ)と、それを囲む固定部分(ステータ)のこと。
- クリアランス:部品同士の間に設けられる意図的な隙間。構造上の変形やずれを吸収する役割を持つ。
- リブ:部材を補強するための突起状構造。接着面や応力の分散に活用される。
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