リード
リンテックが開発した新たなペリクル膜は、カーボンナノチューブを用いた多孔質構造により、極端紫外線(EUV)を高い均一性で透過する。半導体の微細化が進む中、製造工程の安定性を担保する技術として注目される。透過率のばらつきを抑える測定手法も確立され、EUVリソグラフィーにおける信頼性向上に貢献する可能性がある。
本文
半導体製造の最前線で、光の「透過性」と「均一性」を極限まで追求する技術が登場した。リンテックが特許を取得した新技術(特許番号:JP7678207B1)は、カーボンナノチューブ(CNT)を活用した新たなペリクル膜だ。EUV(極端紫外線)リソグラフィーへの対応力を高め、露光工程の精度と安定性を飛躍的に向上させる。
ペリクル膜とは
ペリクルとは、半導体製造においてフォトマスクを覆う極薄の膜構造。主に異物の付着を防ぐ役割を果たし、マスクと一定距離を取ることで露光精度への影響を回避している。露光に使用される光が従来の紫外線からEUV(波長13.5nm前後)に移行しつつある今、このペリクルにも新たな要件が求められている。具体的には「高い透過率」と「熱・光への強さ」、さらに「膜全体で均一な光の透過性」だ。
解決する課題:EUV時代の膜の弱点
従来のペリクル膜では、EUV透過率を間接的に測る方法が主流だった。反射率などから厚みのばらつきを推測するに留まり、実際に光が均等に通るかどうかを評価するのは困難だった。ばらつきが大きいと、一部の領域だけ透過率が下がり、露光ムラや回路パターンの歪みが生じかねない。
さらに、透過性を重視して膜を薄くすると、物理的に変形しやすくなる。これが露光精度や歩留まりの低下につながるという二律背反的な問題を抱えていた。
技術の仕組みと差別化ポイント
リンテックが開発したのは、カーボンナノチューブを含む多孔質構造のペリクル膜。この構造により、EUVの透過率を高く保ちつつ、膜自体の厚みを確保し変形にも強い設計が可能となった。
本技術では、膜の「可視光透過率(波長400〜750nm)」を高精度に測定し、それをEUV透過率のばらつき評価に利用する。この可視光を使った測定は、700,000画素の高解像度で撮像し、透過率の標準偏差が0.56%以下、変動係数が0.68以下に抑えられていることが要件となる。これにより、膜の均一性を定量的に評価し、製品としての品質管理が飛躍的に向上する。
他技術との違い
従来の評価方法があくまで反射による間接的評価であったのに対し、本技術は「透過そのもの」を評価軸にしている点が画期的だ。膜そのものの性質に立ち返って、EUVとの関係性を可視光から推定するという逆転の発想が、製造現場での信頼性を大きく高める。
また、CNTという材料選定にも注目が集まる。CNTは軽量で高強度、かつ熱伝導性にも優れており、EUVの照射による熱劣化を防ぐ性質がある。膜の形状安定性と光学特性を両立できる素材として、今後ますます採用が進むと見られる。
実用化による効果と今後の展開
本技術が半導体製造ラインに導入されれば、EUV露光装置の安定稼働が可能となり、回路の微細化と量産性の両立が現実味を帯びてくる。特に、EUV対応ペリクルは極めて供給が限られており、各国の製造装置メーカーから引き合いが強い。リンテックがこの分野で存在感を高めれば、日本発の材料技術としてグローバルでの活用も期待される。
一方で、EUVリソグラフィーは今後さらに波長を短くし、より複雑なパターン形成が求められる可能性がある。そうしたなかで、今回の技術は「見えない膜」の均一性という根本課題に向き合った成果として、持続的な競争力を備えると言えるだろう。
注釈
- ペリクル膜:フォトマスク表面を保護する超薄膜。埃などの異物混入を防ぎ、露光精度を保つ。
- カーボンナノチューブ(CNT):炭素原子が筒状に結合したナノレベルの構造体。軽くて強く、電気や熱をよく通す。
- EUV(Extreme Ultraviolet):13.5nmの波長を持つ極端紫外線。次世代半導体の製造に用いられる。
- 可視光透過率:人間の目に見える光(400〜750nm)を、どれだけ透過するかの指標。EUV透過性との相関があるとされる。
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